工事現場を無人化する! コマツ、ロボット建機の革新


■レンタル料は3倍でも「十分に元が取れる」

利根川の見上げるような堤防の緑が、初夏の日差しを受けて色濃く輝いていた。コマツの「PC200i」という油圧ショベルが、その下で規則正しい動きを繰り返している。現場に出て2年目という20代のオペレーターが行うのは、1メートルの深さで土を掘り進めていく作業。すでに50メートルほどの工程がきれいに仕上げられており、その動きには無駄や迷いが感じられない――。

JR栗橋駅から車で30分、国土交通省発注の堤防強化工事が行われる現場を訪れると、土木工事の経験者ほど不思議な感覚を抱くはずだ。なぜなら、通常の工事であればあって然るべきものが、この現場にはないからである。

例えば、掘り出される地面の深さを確認する作業員の姿がない。また、オペレーターが作業の目印にする「丁張り」(糸を等間隔で張ったもの)がない。さらに掘り残した箇所の仕上げを行う小型ショベルがない。動いているのは0.7立米の油圧ショベルと、掘り出した土を運ぶダンプトラックだけだ。

PC200iには施工現場の3D図面が入力されている。モニターに数値を打ち込めばGPSで自らの位置を割り出し、曖昧なレバー操作でも決められた高さや深さでバケットが動く。オペレーターの操作に無駄がないのは、電子制御によって油圧ショベルが正確に土を掘り下げているからなのだ。

地元の建設会社アトスの社長・渡邊直也が、その様子を見ながら言った。

「足元の土を決められた深さで掘り進める作業には、これまで熟練オペレーターの技が必要でした。それがICT建機を導入してからは、講習を受けたばかりのオペレーターでも同じ作業が可能になったんです」

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敷鉄板に比べ軽量で使いやすい樹脂製敷板&多目的ゴムマット

 工事現場で軟弱地盤への養生や重機の走行時に路面の破損防止に使用される敷板。最近は、軽量で運搬も容易な樹脂製敷板が広く普及しています。

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 ■工期が短くなって受注を増やせる

 

利根川の現場では長さ230メートルを掘り進める。従来の建機では5~6日かかる作業だが、ICT建機では早ければ2日で完了する、と彼は続けた。

「工期が短くなって受注を増やせるだけでなく、手の空いた熟練オペレーターを他の現場に回せる。これが当たり前になれば現場は様変わりしますよ」

ICT建機の活用で油圧ショベルで1.5倍、堤防の法面形成などの難しい作業を行うブルドーザーでは3倍の速さで作業が進んでいるそうだ。また、熟練オペレーターがICT建機のアシストを受けると、さらに作業効率が上がることも分かってきた。

「特にブルの精度になると、熟練オペも勝てない。操作が自動アシストされるので、本来なら何度もやり直して仕上げる箇所が一度で終わるんですから」

アトスが導入したのは、ICT建機だけではない。コマツの「情報化施工」の新サービス「スマートコンストラクション」を活用し、工事開始時の測量工程からサポートを受けている。

この堤防工事ではレーザースキャニングによる高精度測量を行ったが、風の少ない場所であればシリコンバレーベンチャー企業「スカイキャッチ社」のドローンを利用し、空中から測量を行って3D図面を製作することも可能だ。ICT建機のレンタル料は既製品の3倍にもなるが、人員の削減と工期の短縮、それに伴う受注増によって、レンタル料を補って余りある効果があるという。

アトスに建機を貸し出すコマツレンタル・スマートコンストラクションプロジェクト室の西原研一が話す。

「いまのコマツにとって、ICT建機を最大限に活用する彼らのような建設会社は貴重な存在です。我々が測量や施工の中身にまで関わることは大きなチャレンジ。スマートコンストラクションはまだまだ始まったばかりのサービスなので、先進的なお客様と一緒に育て上げることが不可欠だからです」

■「平均点主義」と決別ダントツ商品で勝負

コマツの製品開発に「ダントツ商品」というスローガンがある。先々代の社長・坂根正弘(現・相談役特別顧問)が、経営改革の目玉に掲げたものだ。

彼は自著『ダントツ経営』において、それを<ライバルに負けてもいいところ、あるいはライバルと同じぐらいでいいところをあらかじめ決めておき、その分、強みに磨きをかける>手法と定義している。坂根は従来のコマツを覆っていた「平均点主義」からの脱却をこのスローガンによって宣言し、以後の開発の基本姿勢とした。

その中で開発された技術に「コムトラックス」がある。2001年からすべてのコマツ製建機に標準装備されたもので、エンジンコントローラー、ポンプコントローラーなどの情報を随時データセンターに送り、GPSによって建機の置かれている場所、稼働状況、燃料の残量といった情報を代理店と現場の顧客が共有できる仕組みだ。

コムトラックスは遠隔操作でエンジンをかからなくすることもでき、もともとは建機の盗難防止のために考えられた機能だった。当時、盗んだ建機でATMを壊す犯罪が相次いでいたことも背景にあった。だが、そのメリットは彼らが想像する以上に大きかった。

建機の稼働状況は、経済動向と密接な関係にある。坂根は、2004年の中国での経済引き締めの際、稼働状況の急速な落ち込みを察知して工場での生産を早期に止めることもできた、とも回想している。現在、コマツは全世界に散らばる38万台(2015年5月末)の建機の稼働状況を把握し、その膨大なデータは建機の保守管理、稼働管理、帳簿作成といったサービスの提供だけではなく、次世代建機の開発にまで活かされている。

■全工程の電子制御を可能にした

同社はこのコムトラックスをきっかけに建機のICT化に着目し、2008年には世界初となる超大型ダンプの無人運行システムを南米チリの鉱山で稼働させた。13年から市場に投入したICT建機も、その流れをくむ「ダントツ商品」の一つである。

これまでも建機をICT化する商品は発売されているが、それらは通信機器などを外付けするもので、行える作業も限られていた。一方、コマツは建機そのものをICT化し、工事の全工程にわたっての電子制御を可能にした。

開発を担当した情報化建機開発グループ部長の山本茂は、「目標は5年間、他社に追いつかれないこと」と語る。

「水平方向で±10ミリ、高さ方向で±30ミリという精度を実現しています。特に情報化施工の先進国である北米や欧州では、ICT建機のような商品が強く求められていました。以前から開発は続けていましたが、コンピュータやGPSの性能が高まったことで、現場に投入できるレベルまで精度を高めることができた」

山本の言葉通り、ICT建機が最初に発売されたのは北米や欧州だった。

そんななか、今年1月に社長の大橋徹二が日本向けの新事業として発表したのが、測量や工事計画、施工確認まで工事全体の効率化を提案する「スマートコンストラクション」だった。

 

工事現場を無人化する! コマツ、ロボット建機の革新【1】 生産性向上で「土建」は成長産業になる:PRESIDENT Online - プレジデント